山伏と造林そして天然林

吉野(奈良県) ・・山伏の発祥の地・そして吉野杉



吉野杉・吉野ビジターセンターにて


金峯山寺蔵王堂・柱は自然巨木です

吉野如意輪寺前の巨杉・この裏山には
後醍醐天皇御陵があります

★竹谷素信氏著  布施の山伏から・・・

布施村の造林は享保四年(1719年)に原玄琢の教えにより、布施の藤野孫一らによって私有林として創始されたと伝えられている。
造林はまず村の周辺から始められて、次第に奥部へと及ぼして行った。
※吉野杉種子
 明治40年・1907年「吉野林業全書」が発刊されその中に
【云ふ今から二百年前即ち寛永乃頃杉種一石を隠岐国へ分与せしことあり、以ってその発達を知るべきなり】
だいたい1707年頃かと・・おそらく原玄琢か藤野孫一に譲ったかと・・(この年代なら孫一は6歳なので、孫一が譲り受けたのなら
もう少し年代は後かと・)ただ布施の造林の起こりと、この吉野で出された文書は一致するものです。

※天然林
その後1820年頃から奥地開発へと進んで行ったのであったが、それにもかかわらず布施中谷の奥部には、
一見して人工的とも思われる杉などの巨木樹林が現存している。現在天然林と云われている地域である。
昭和30年・1955年に、この一帯の巨杉を年輪調査の為に、布施の方が伐った報告があります。それにると樹齢が350年だと結果がでました・・
逆算しますと、
1605年頃に植えられた事になります。隠岐の造林の先駆けと言われています年代より100年も以上前になります。

●たけさん的解釈にもなりますが・・

 今天然林と言われている一帯は、今でこそ林道も出来て、車ですぐに行ける所ですが、昔はそうたやすくは入れなかった地域だと・・
また1677年の隠岐を記録した隠州視聴合記でも鷲ガ峰の一帯は、魔所にて入山の人稀なりとあります。
布施の方に聞きましても、鷲ガ峰一帯は神聖な場所で人が入ってはいけない所だったと・・明治の初めまでは入ってなかったと・・
天然林・自然にあれだけの樹木が存在する事が??でして、誰かが手を加えた・植えたとしか考えられません。
それは鷲ガ峰一帯を修行の場としていた山伏しか考えられないと・・勝手に解釈しています。
その杉の種子は山伏の発祥の地・吉野から持ち込まれたものだと・・・

再び竹谷氏の書に戻ります・・
 享保造林は近辺からはじめて次第に奥山に及ぼして行ったが、所謂天然林は、享保造林より100年以上もの古樹で、
人も恐れる魔境に並び立った美林であってみれば、それが人力によってできたと想定することも・・
(中略)
 ここに山伏が登場するのである。
山伏は植林のことだけでなく、諸他の点においても布施とは深い関連があると思う。山伏が修行として難行を積んだであろう
その過程は明らかではないが、ただその中で業績として今に残っているのが、杉の植林であり、いわゆる天然林だと思われる。
霊場とその周辺を清浄整頓する修法の一つとして、彼らは開拓・植樹の途を選んでいる。造林という仕事は企画も施業も難事で
あるが、昔は言語に絶する難行であった筈である。

 吉野地方は山伏の発祥の地だとされており、山伏たるものは必ずそこで修法を積まされたものだと言われている。
その謹行の中に(時代の推移に従って)植林が課せられていた様である。

 さて杉種子一石は、山伏が少量ずし箱に入れて、幾人かの背で運ばれて隠岐の島の根本道場(大満寺山北東面の中腹にあった)
に届いたものと推定される。当時において、吉野の奥地から、山海幾百里を越えて杉種子を運送する者は、
まず山伏をおいては見当たらないのではないか。
山伏達は、運び込まれた杉種子を、布施岩倉に在る道場の付近一帯に於いて、吉野の技法にならって、焼畑に種子をまき、
或いは幼苗を仕立てて斜面に植えるなど・・事後の管理も吉野方式に習って丹念に行ったのではないか。
気候風土の似通った布施山を、吉野本山の分身としてふさわしく整えるために、精根を傾けたのだろう。
 

★布施の天然林・・隠岐の文化材 木谷武彦氏の文から・・

 布施村の天然林は、島後の最高峰大満寺山に連なる鷲ヶ峰(標高563m)
の北側斜面に位置しています。森林面積は約15ヘクタールを有し、林内は
自然の生態をそのまま温存しています。
 昭和61年の調査では、杉811本・クロべ228本・モミ127本・その他ヒメコマツ・
サワグルミ・カツラ等の大木が1200本以上も確認されています。
中でも杉は樹高30mを越すものもあり、かなりの巨木です。
 
島根県がこの一帯を「隠岐自然回帰の森」として、平成元年から四年にかけて
遊歩道整備、展望台、休憩所などを設置して、自然観察、森林浴等が出来るようになりました。
 また、
「本村が永遠に緑豊かな村であることを願い、永久に伐採することなく
巨木の森をつくり、村民の永久財産とて保存し、後世に継承することによって、
豊な森林づくりと緑の大切さを提唱することを目的」
として、
『布施村天然林不伐採条例』を制定し、平成3年4月1日から施行しています。この条例により、
天然林を含めこの一帯を将来にわたって樹木の伐採や植物、鉱物の採取をしない
【天然林不伐の森】に指定し守り続けています。

天然林一帯の写真です。あまりにも巨木のため、撮影が困難です・・実際生で見たら迫力が伝わってくるかと・・・